野菜もの知り百科 チョロギ(シソ科イヌゴマ属)【JAコラム】
土壌医●藤巻久志
チョロギは、漢字で「長老喜」や「千代老木」などと書く縁起物の野菜です。1~3cmくらいの巻き貝のような白い塊茎を食用にします。蚕にも似ているので「草石蚕」とも書きます。梅酢に漬けて赤くし、正月の黒豆に添えるのが一般的です。
夏目漱石は『吾輩は猫である』で、「始めて海鼠(ナマコ)を食い出せる人はその胆力に於(お)いて敬すべく」と書いています。芋虫のようなチョロギを最初に食べた人は誰でしょうか。中国華南原産で、日本へは江戸時代初期に伝わりました。19世紀末のフランスではクリーム煮などの食材として珍重されました。
野菜の栽培には、種子で増やす種子繁殖と、株分けや挿し木などで増やす栄養繁殖があります。種子繁殖は他の花粉が掛かり、親と違う形質の子ができることがあります。栄養繁殖は親の遺伝子がそのまま子に伝わります。
チョロギは塊茎で増やす栄養繁殖です。同じく塊茎で増やすジャガイモは「キタアカリ」や「シンシア」など世界中で品種改良が進んでいますが、チョロギはほとんど改良されていません。楊貴妃や坂本竜馬がもしチョロギを食べていたなら、それは私たちが今食べているものとまったく同じものかもしれません。
チョロギの塊茎は通信販売でも簡単に入手できます。通信販売は米国も日本も種苗の商売から始まったといわれています。チョロギは強健な多年草で、一度植えると掘り残した塊茎から毎年芽が伸びてきます。
チョロギはゆでてサラダ、炒め物、煮物、シチューなどにも利用できます。熱が加わるとユリ根に似た味になります。でんぷんは含みませんが、スタキオースというオリゴ糖を含んでいます。
チョロギはバジルやローズマリーなどと同じシソ科の植物です。夏にサルビアに似た薄紫色で唇形の花を咲かせます。コンテナ栽培すれば、塊茎だけでなく花も楽しめます。
藤巻久志(ふじまきひさし) 種苗管理士、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。
JA広報通信12月号より